黄昏時のホラー、カズオ・イシグロ「夕餉」 Kazuo Ishiguro / A Family Supper (1982)

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ストックホルム、スウェーデン 2003年
ストックホルム、スウェーデン 2003年

「じつに美味い」とぼくは言った。「これは何です?」
「ただの魚さ」

カズオ・イシグロ「夕餉」出淵博訳(『集英社ギャラリー 世界の文学(5) イギリス4』所収)集英社
A Family Supper: Kazuo Ishiguro (1982)

カズオ・イシグロの短編小説『夕餉』は「黄昏時のホラー」だ。口の重い語り手、鎌倉の古い日本家屋。小津安二郎監督がラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の小説を映画にしたら、こんなふうになるのではないか。何か重要な「事実」がはっきりと語られないまま、話が進んでいく。ピントの合っているところと、ボケているところが斑になった古いモノクローム写真を見ているような不安感が漂っている。

元帝国海軍軍人の厳格な父とアメリカ帰りの息子のあいだには、どこかわだかまりがある。大学生の妹は、二人のあいだで、一見中立的な立場を保っているようだがはっきりしない。そんな三人が、河豚の毒にあたって亡くなった母の遺影の飾ってある部屋で、夕餉の食卓を囲む。メニューは「ただの魚」の鍋。

登場人物に「美味しんぼ」の海原雄山、山岡士郎、栗田ゆう子を当てはめて読むと、全く違う趣になってしまうので注意が必要だ。