反重力のベンチを求めて

日々
Subway tunnel, Nagoya 2020
地下鉄のトンネル、名古屋 2020

名古屋の地下鉄、名城線のとある駅のホームには、誰の仕業か、座面に薄く細い線で「ハゲ」と刻み込まれたベンチが、かつて確かにあった。

僕はハゲではないし、今のところ際立ったハゲの兆候もない。だからというわけでもないが、そこに座るのが憚られる。ハゲであったら、なおさらであろうとも想像する。

以前、うっかり、そのベンチに腰掛けそうになったことがある。その刹那、座りたい欲求と重力に逆らい、一瞬尻が中空に留まった。まるで現代宇宙理論のダークエネルギーのような力が働いているかのように。

後日、その反重力的な時空を写真に撮らんと思い、リーデンブロック教授のような意気込みで、その地下鉄ホームへと下降したところ、どうしたものか「ハゲ」のベンチはどこにも見当たらなかった。

よくある記憶違いだったのだろうか。あるいは重力場の捻じれが、その姿を消しているのかもしれない。などととりとめもないことを考えながら、後ろ髪を引かれる思いで、地上へと引き返した。

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