日本人です。フィンランド人です。

フィンランド
ORION 2006
ORION 2006

フィンランドにいたころ、初対面の人、たいていはフィンランド人だったのだが、と挨拶を交わすとき、第一声は型どおりに「ヘイ! 〇〇です」、と自分の名前だけを述べるスタイルだったのが、ある時期、名前のあとに出自を付け加えて挨拶していたことがあった。

名前のやり取りに続き、どこから来たのか? 何国人か? と繰り返される決まりきった質問を迂遠に感じ、先回りして自己申告するようになっていた。そんな、一見効率的だが、そっけない挨拶をやめたのは、ヘルシンキの映画館ORIONで「パゾリーニ週間」中のある出来事がきっかけだった。

映画に誘ってくれたシネマトグラファーの友人から、やはりフィンランドで映画製作に携わる青年を、その日の上映を待つ人々で混雑する映画館のロビーで紹介されたときのこと。ぼくが、「〇〇です。日本人です」と名乗ると、その青年が穏やかだけれどちょっと意地悪そうな笑みを浮かべて、「〇〇です。フィンランド人です」と切り返してきた。

それを聞いて、いきなり出自までも述べる自分の挨拶の仕方がバカバカしく思え、以来、初対面の相手には、まずは名前だけを述べるシンプルなスタイルに戻した。長く続くにせよその場限りにせよ、迂回路をたどるように、付かず離れず行きつ戻りつしながらの方が自分の柄に合っている。相手にとっても、いきなりすぎるのも迷惑だろうし。

それにしても、そのあと観たパゾリーニの映画が何だったのか、『カンタベリー物語』だったのか、あるいは『王女メディア』だったのか、さっぱり思い出せないのに、箪笥の上で昼寝をしていた猫がいきなり足元にスタリと降りてきて、にゃあ、と鳴くみたいに、些末な記憶が前触れもなく目の前に現れる。記憶は普段どこで眠っているのだろう。

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