死神博士のジョゼフ・コーネル

日々
kimmo ojaniemi Helsinki 2003
kimmo ojaniemi Helsinki 2003

……いうなれば、不可思議な魔法のはたらきによって光が肉と化した、生命いのちある霜のように……
ジュリアン・グラック

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ「ダイヤモンド」のエピグラフ 生田耕作訳

先日思いがけず、ジョゼフ・コーネルの作品を観る機会にめぐまれた。名古屋ボストン美術館での最終展『ハピネス~明日の幸せを求めて』を訪れたときのことだった。中世の星座図像を用いた20センチ四方ほどのコラージュ作品《アルフォンソ10世の本のアンドロメダ》は、展示中のルノワールや曾我蕭白の大作と比しても引けを取らず、しかしひっそりと展示室の片隅で妖しい光芒を放っていた。ジョゼフ・コーネルは私の最も好きな芸術家の一人であるのに、今まで本物の作品を観る機会がほとんどなかったこともあり、思いもよらぬ邂逅に夢心地で魅せられてしまった。

所蔵は、馬場駿吉氏。名古屋ボストン美術館の館長だ。心血を注いできたであろう美術館の最後に、自身の個人コレクションを提供している。馬場氏はいつも笑みを絶やさない老紳士であるが、どこか仮面ライダーに登場する死神博士をおもわせる風貌の持ち主でもあり、眼光は鋭い。

ところで、17世紀の魔女裁判で知られる北米の町セイラムに、ピーボディ・エセックス博物館がある。エドワード・S・モースが中国や日本などで収集した民具を多く収蔵しており、日本との関わりが深い博物館だ。そこで2007年に開催された、”Joseph Cornell: Navigating the Imagination”展に、この馬場氏所蔵の《アルフォンソ10世の本のアンドロメダ》が要請されて貸出されている。魔女の地にしばらくの間滞在したことで、アンドロメダ姫の魔力に磨きがかかったものと思われる。

2018年10月8日をもって、名古屋ボストン美術館は閉館する。ただ、この20年間、数々の展覧会をとおしてこの身にかけられた魔法は解けることはないだろう。そのことに喜びを感じている名古屋市民の一人として、馬場館長と美術館スタッフの方々に感謝申し上げたい。

ジョゼフ・コーネルとの邂逅が夢ではなかったということを確認するためにも、最後にもう一度、名古屋ボストン美術館を訪れたいと思っている。また、馬場氏のもとには、DIC川村記念美術館で2019年3月から開催予定のジョゼフ・コーネル展にと、《アルフォンソ10世の本のアンドロメダ》の出展要請がかかっているそうだ。死神博士のジョゼフ・コーネル作品の妖しい光に浴する機会は今後も確保されている。

コメント