イッセー尾形のバーテンダーが居そうな酒場で、レーモン・クノー 「トロイの馬」 塩塚秀一郎 訳

短篇小説
Bartender at TELAKKA in Tampere 2013
Bartender at TELAKKA in Tampere 2013

「トロイの木馬」ではなく、「トロイの馬」である。酒場のカウンターに男と女、馬、バーテンダーがいる。男と女はお金に困っているらしい。競馬で散財したのかもしれない。シャルロット叔母さんからお金を借りようかどうしようか相談している。

馬はなんとか男女の会話に割り込もうとする。「藁くずをよって編まれた葉巻」を女に勧めたり、自分の馬としての来歴を披露したりして。女は馬の「葉巻」を断り男のゴロワーズに火をつけるが、馬の会話には乗る。馬の出身地は、ガリヴァーが訪れたフウイヌムではなく、オートゥイユやシャンティイといった競馬場でもなく、トロイである。祖父はケンタウロス、祖母は普通の馬で、妹の姿は「アマゾン族の戦い」にも描かれているらしい。男は少しだけ馬の話に付き合う。

馬は学生である。話題が馬の専攻に移り、ほんのひととき会話が盛り上がるが、結局、彼らは馬とはウマが合わず、逃げるように酒場を後にする。

突然興味を持ったバーテンダーが会話に加わろうとする。
「お客さん、遺伝学をなさってるんですか?」と馬に話しかけた。
「そのとおり」

レーモン・クノー「トロイの馬」 塩塚秀一郎 訳(『あなたまかせのお話』 国書刊行会 所収、 Le Cheval troyen: Raymond Queneau)

 酒場といえばバーテンダーだ。馬場ではジョッキーが馬の手綱を握り、酒場ではバーテンダーが酒場の空気感を作る。

ところで、僕にとってバーテンダーといえばイッセー尾形。名古屋で最初に一人芝居のライブをやったときから(もう20年以上前になるけれど)、名古屋ではたくさん観た。僕は芝居にはあまり熱心ではないけれど、イッセー尾形の、平凡と異常が同時にあるような奇妙な別世界が大好きだ。特に「バーテンダー」のシリーズが。僕はお酒があまり飲めないのでバーに行くことはほとんどなく、本物のバーテンダーのことはよくわからない。僕にとってのバーテンダーの原型イメージはイッセー尾形のそれなのである。

「トロイの馬」の実在と架空の中間にある別世界は、イッセー尾形的別世界にどこか通じるところがある、と思った。場末の酒場なのに貧乏くささを感じさせない点も好きだ。久しぶりにイッセー尾形の「バーテンダー」を観たくなってしまった。ひょっとしたら、イッセー尾形の「ジョッキー」っていうのもあるんだろうか?

作者はレーモン・クノー。「サヴァラン」というブリア=サヴァランにちなんだ丸い形のキルシュをかけたお菓子があるが、「レーモン・クノー」という名前のお菓子もあったような。気のせいかもしれないけれど。

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