目新しい親近感

フィンランド
Helsinki Airport Finland February 2012

「シベリヤはどうしてこう寒いのかね?」
「神様の思召しでさ」と、がたくり馬車の馭者が答える。

チェーホフ「シベリヤの旅」神西 清 訳(『シベリヤの旅 他三篇』所収)岩波文庫

「こんなところにも人間が住んでいるんだ」
  中部国際空港セントレア発のフィンエアーの機体がヘルシンキ空港に着陸し、滑走路をターミナルに向かってゆっくりと旋回いる途中、近くの座席にいた20歳ぐらいの女の子が、ポツリと漏らした言葉を覚えている。必ずしも傲慢な感じではなく、その口調にはむしろいくぶん感心したようなところさえあったが、まるで地球から何億光年も離れた惑星に連れてこらてしまったかのような不安な面持ちで、2月初旬の、灰色の空と灰色の大地の溶け合った、寂寥感あふれるフィンランドを客席の窓ごしに眺めていた。

ぼくは半分その女の子に同感しつつも、少しばかり考え込んでしまった。たしかにフィンランドの冬は寒い。特に1月下旬から2月初旬頃は、シベリアの強力な寒波がフィンランドをくまなくおおいつくしてしまうことがままある。しかも、意地悪なトロールの仕業なのか、そういう時に限ってセントラルヒーティングがたびたび故障するのだけれど、そんな時にはどうしてこんな寒いところで人間が暮らしているのだろう、という気分にもなった。

でも、少ない範囲だけれど、個人的な交友を通して「こんなことろ」に暮らしているフィンランドの人たちがとても心優しくて親切だ、ということを実体験として知っている。もし仮に「とても冷たく不親切な人たちが暮らす、温暖で素敵な国」があったとして、フィンランドとその国のどちらかを選ばなければならないとしたら、ぼくは明確にフィンランドの方を選択するだろう。

そんなフィンランド人の気風はどうやって出来てきたのだろう? 冬の厳しい寒さが関係しているのかもしれないが、それはわからない。これだけ寒いところでは、人間同士がよっぽど助け合っていかないと生きていけない、と普通思うのだけれど、そのわりには人間関係は、湿気の少ないフィンランドの雪のようにサラサラとしている。それとも彼らの内面ではドロドロとしたものがとぐろを巻いているのだろうか。

そういえばアキ・カウリスマキの映画に登場するフィンランド人たちは、みな心優しいのだが、すっきりとしない何かをそれぞれ胸に抱えている。Juhla MokkaKarhuFazerin Sininensalmiakki、それにペシミスティックなユーモアを加えてぐるぐるとかき回し、タバコでしっかりと燻して冬の間薄暗いところで発酵させる、それを何年か続けると出来上がる何かを。

たぶん、ぼくがフィンエアーの機内で見かけた女の子にとってフィンランドは、フランスやイタリアへ行くときの乗り継ぎポイントでしかないのだろうが、たまには「こんなところ」に途中下車(と言うのだろうか飛行機の場合)してみるのもいいのになあと思う。他のヨーロッパ諸国にはない、目新しい親近感をフィンランドにおぼえて好きになってしまうかもしれないし、実際そういう人を少なからず知っている。実のところ、ぼく自身もそのうちの一人であるのにちがいない。

『シベリヤの旅 他三篇』チェーホフ/神西清訳は、岩波文庫「2017年〈春〉のリクエスト復刊」38点43冊、にリストアップされている。丸善にはあったのに、どういうわけかアマゾンではみつけることができなかった。

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