麺をすする音

フィンランド
menu and wines at Finnair business class 2006
menu and wines at Finnair business class 2006

人間とは料理をする動物である。
<古い料理書>
 §
人間とは食事を楽しむ動物である。
<古い料理書>

ハリー・クレッシング『料理人』からのエピブラフ
一ノ瀬直二訳 ハヤカワ文庫

フィンランドとスウェーデンを旅行していたとき、むしょうにラーメンが食べたくなったことがある。滞在中のストックホルムのスーパーマーケットの片隅に見つけたインスタントラーメンは、スープのないタイプのものばかりだった。チャーシューもナルトもいらないし贅沢は言わないが、スープのないラーメンはラーメンではない。とは言え、選択の余地はなかった。

さっそくホステルの共同キッチンで、インスタントラーメンに同封されていた謎の粉末調味料にお湯を加え、適当なスープを作り、ラーメンを食べていたら、同じダイニングルームの少し離れたテーブルで食事をしていた、四人ぐらいの若い白人女性のグループから敵意に満ちた視線がこちらに向けられていることに気がついた。

何だろうと思っていたら、麺をすする音に対する非難の視線だったのだ。いっしょにラーメンを食べていたうちの奥さんから指摘されて気がついた。案外自分が立てている音には気づかないものだ。久しぶりに食べるラーメンが美味しくて、スウェーデンにいることをつい忘れていた。西洋と日本の文化的な違いを体感した瞬間だった。

はじめて日本に来たフィンランド人の友人が、ラーメンを食べたいというのでラーメン屋に連れて行ったことがある。なんでも伊丹十三監督の映画『タンポポ』を観て、日本に来たらラーメン屋でラーメンをすすって食べるのが夢だったらしい。ところが実際にやってみると、麺をすすれない。どうやったらずるずると音を立てて麺をすすれるようになるのか、コツを教えてくれと頼まれた。

普段何気なく行っている動作なのであまり考えたことはなかったが、あらためて客観視してみると、麺をすする時にフウフウと息を吹きかけつつ、息を吸うタイミングで麺をすすっているようだ。麺を口中に投入しつつ吸気は気道に、といったやっかいな作業を、口腔内で舌を使って器用にこなしている。これら一連の動作が絶妙なタイミングで作動する過程で、ずるずると音が発生するのではないか。

ぼくの下手な教え方にもかかわらず、彼はぎこちなく麺をすすってラーメンを平らげた。自分には簡単でもフィンランドの人には難しいこともあるし、逆もまた真なりだ。まあ、そんなことをあまりムキになって考えてみても麺が喉を通らない。それより、二人でラーメンをずるずるとすすって食べたのが楽しかった。

ところで、伊丹十三監督の映画『タンポポ』には、白人男性がスパゲッティを豪快にすするシーンがある。演じているのはフランス人パティシエ、アンドレ・ルコントさんという方らしい。さすがフランス人、麺をすする音にもエスプリが効いている。ただ、実際こんなふうにスパゲッティを食べたらレストランからつまみ出されてしまうだろう。やはり訪れる場所の伝統や習慣を尊重する気持ちが大切だと思う。

矢野顕子×上原ひろみ – 「ラーメンたべたい」 ライヴ・クリップ
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